マーケティング
椎橋 由美
会社をスケールさせるためのM&Aを。パートナーとビジョンを合わせる
富士フイルムシステムサービスが取り組む新規事業部門、デジタル戦略推進部。ここで椎橋はパートナーディベロップメントグループに所属し、社外のパートナーとのアライアンスやM&Aを検討・実行するプロジェクトを管理しています。
椎橋 「一般的なプロジェクトマネージャーのような仕事に近いイメージですが、私たちが取り組む事業では社外パートナーとの連携を中心に推進しています。そのため、我々が保有していない技術・サービス等を有するパートナー企業とオープンイノベーション方式でエコシステムを構想し、協業のかたちを模索しています」
M&A担当としては、資本提携やM&Aを視野に入れた進出領域の市場パートナーの調査・コンタクト、プロジェクト発足後は社内外専門家を含めたバリュエーションやデュー・デリジェンスを実施、協業スキームを構築するのが主な職務です。その中で椎橋が目下担当するのは、当社が力を入れる防災・減災DXプロジェクト。先期から提携先や協力先を探し始め、複数の対象企業と商談を進めている段階です。
椎橋 「防災・減災DXプロジェクトの成功のためのM&Aはもちろん、私たちに求められているのは会社を短期間でスケールさせるためのM&Aです。経営の目線に立った時に、買収価格が値するか、どれだけのシナジーが見込めるか、そういった点が合致すれば積極的に話を進めることになると思います」
事業部としてだけではなく、全社の経営の立場でM&Aを語る椎橋ですが、この職務に就いたのは2019年9月。わずか2年前は未踏の領域だったといいます。
海外とのビジネスの架け橋を担った経験から、管理職を歴任
M&A職に初めて挑戦し、目まぐるしいスピードでさまざまな知識とスキルを身に着けた椎橋。こういった状況にプレッシャーを感じる人もいる中、彼女はむしろ変化と刺激を楽しんでいました。
椎橋のバイタリティに富んだ人間性は、その職歴からも感じることができます。
大学卒業後、米国留学を経て富士フイルムシステムサービスへ入社。ここで椎橋は、語学のスキルを生かして外資系IT企業を対象とした海外対応の職務を経験します。
椎橋 「当時はよく米国ゼロックス・コーポレーション(以下、米ゼロックス)から技術担当者がファシリティーの視察に来ていた時期で、ビジネスの世界をよく知らないまま実地の世界に入るようなことが少なくありませんでした」
当時はITバブルの真っ盛り。名立たる外資系IT企業のグループセールスを担当し、英語の提案書を準備したり、海外本社の決裁者に向けてプレゼンテーションを行ったり、時には商談で海外出張するなどといった忙しくも華やかな日々を過ごします。
その時の経験を踏まえ、米ゼロックスが手掛けるグローバルドキュメントサービスの日本展開案件にジョインし、ロウンチを担当。さらには、アジア展開を主導するため本社のあるニューヨークへ赴任し、PMを務めることになります。
椎橋 「ニューヨークといっても北部郊外のアジア系人口が少ない地域でしたので、アジア圏のビジネス展開に慎重な姿勢で、エリア・文化に精通している人材がほしいというお話があったのです。ビジネスマンとしてまだまだ未熟な私を『行ってきなさい』と快く送り出してくださった当時の上司には大変感謝しています。」
米国で経験値を高めた椎橋は帰国後間もなく、富士フイルムビジネスイノベーションへ出向し、日本に赴任していた米ゼロックス駐在員のパートナーとして新たな業務に就きます。
椎橋 「米ゼロックスから日本に導入を進めていた複合機周辺のサービスがあり、ローカライゼーションを担当させていただきました。駐在員帰任までの短い期間でしたが、それまでの経験を活かし、外資系金融顧客を担当する営業チームと駐在員との橋渡し役として案件を支援しました」
その後、グローバルな仕事からは180度転換。SFA導入、CS調査、営業・新入社員教育、展示会出展などの営業推進を担当します。この頃には結婚、出産を経て、人生のステージを順調に登り続ける椎橋に、そろそろ本社へという声がかかります。
2014年、経営企画部へ異動した椎橋は、富士フイルムビジネスイノベーションおよび関連会社の連携強化の背景から、主にグループ広報機能の拡充に向けて発足した広報グループで管理職を務めることになります。
椎橋 「そこからずっと広報だったんですが、2019年から富士フイルムビジネスイノベーションへ兼務出向するお話をいただきました。全社の中期計画の中で他社とのアライアンスやM&Aの検討が始まっていましたが、各社・各事業部で個別に進めるのではなく、M&A・資本提携担当者の兼務出向要請があり、当社からは私が赴くことになりました」
前世は開拓者?「初めての◯◯」から第一線の走者であり続ける
2019年9月、広報を兼務するかたちで再び富士フイルムビジネスイノベーションへ出向した椎橋。期間限定の予定が延長となり、2021年4月からは広報との兼務から現職へ1本化し専任に。これまで管理職を歴任し、駆け上がるようにキャリアステップを歩んできた椎橋は、なぜ全くの未経験でM&A職に就くことを選んだのでしょうか。
椎橋 「自ら選んだというよりも、この転機に限らず、私は『初めての◯◯』という機会をいただくことが多かったんです。自社で初めての海外赴任から始まり、関連会社から親会社へ出向したのも私が第一号で。
広報も新設組織でしたので、富士フイルムビジネスイノベーション広報部門や広告代理店のかたがたと共通の言語で仕事ができるようにと独学でPRプランナーを取得しました。身近にロールモデルがいないから、自らがロールモデルにならなくてはなりません」
前世は開拓者だったのかもしれないと思うことがあるほど、未踏の地に踏み入ることが多かったという椎橋。ずっと同じことをしていると物足りなくなり、外に目が向くようになる好奇心旺盛なパーソナリティーを持っているともいえます。
椎橋 「実をいうと、何度か転職を検討するタイミングはありました。ところがいざ行動しようとすると、不思議と新たな挑戦の機会が舞い込むんですよね」
これだけアクティブな精神を持つ椎橋をつなぎとめるもの──それは椎橋が進めるプロジェクトが新規性に富むだけに限らず、さまざまな刺激要因があるからだといいます。
椎橋 「着任した頃は聞き慣れないファイナンス用語が沢山で、早々にキャッチアップできるよう必死に勉強しました。今は一連のプロセスのようなものがだいぶ分かってきたところですが、まだまだ新たな発見もあり、新鮮な状態が続いています」
また、椎橋は冷静に自社の強みを見つめて評価する目を持っています。
椎橋 「現プロジェクトでは、衛星画像やドローンなど最先端の技術を用いる取り組みもしていますが、おそらくゴールは全てを最新技術に入れ替えるということではないのだと思います。
私たちの強みはどちらかというと、お客様が現場で使う時に『こういうものがあったらいい』というものを補完できるシステムを作ること。技術的なところよりも、お客様の業務を熟知し、ニーズに寄り添ったご提案を得意としていることは圧倒的な強みで、他の大手企業と比べて負けていないと自負しています」
プロ意識の高いメンバーで補完し合う主体性が大きなプロジェクトを動かす
パートナーと協業の形を模索する上で、資本提携であってもM&Aでも、そのあとが大事と語る椎橋。
椎橋 「現在、パートナーとのクロージングに向けて鋭意プロジェクトを進めていますが、クローズして終わりではなく、そこからがスタートでもあります。事業をスケールさせる、会社を大きくしていくというところが最終的なゴールであり、刈り取りまでは確実にやっていきたいと思っています」
そう語る決意の奥に、少しもプレッシャーを感じさせない椎橋の精神力。その背景には、プロジェクトのリーダーやメンバーが果敢に戦う姿を毎日見ている現状があります。
椎橋 「私のプレッシャーと比べると、この事業の責任者である竹中 稔のプレッシャーは尋常ではないと思います。でも竹中は挑戦をすることに躊躇がありません。自身でとことんトライアンドエラーを体現し、その姿をメンバーに見せてくれるため、安心して仕事をすることができます」
彼女が職務に集中できているのは、チームに集うメンバーの意識の高さも影響しています。
椎橋 「チームにはさまざまなバックグランドを持った人たちが集結しています。社内規程・稟議手続きなどのプロセスを熟知したメンバー、政府人脈を持つメンバー、お客様の業界・業務に精通するメンバーなど、それぞれの強みを持ち寄りながら、普段から『僕がやっておきます』『私が確認しておきます』という自主性を持った会話が当たり前のように飛び交っています。
必要とされるさまざまな技術や要素が一つの組織の中にギュッと詰まっていて、仮に組織の中にそれが無かったとしてもメンバーのつてでつながっていく。補完し合える関係を心地よく思います」
経営層からも学ぶことが多いという椎橋。一緒に仕事をしたい人材について、こんなユニークな考えを持っています。
椎橋 「普段、社長がよくお話しされているのが『チャーミングであることの大切さ』。これには私自身大変共感していて、チャーム(魅力)を持っている人と一緒に仕事をしたいと思います。万人に好かれる必要はありませんが、仕事を進める中でコミュニケーションが円滑になることはメリットですし、印象にも残るので何かの機会に声をかけてもらいやすくなると思います。
仮に、それが経営層のかたであれば、経営の視座で物事に触れる機会となり、ビジネスマンとして非常にプラスに働きます」
一つの場所に停滞するよりも、色んな刺激を求めて羽ばたくタイプの椎橋が、この会社で長く働き続けられているのはなぜなのか?椎橋の目に映る社内の人々の姿勢を知ると、その理由が見えてきます。
椎橋 「私がやっていることは、まだ主体的とはいえず、どちらかというと支援型です。自分で案件を発掘して、一から築き上げる──こういうことができるようになって初めて、私も一人前になれるのかなと思います」
重責に就きながら、プロジェクトメンバーの包容力に感謝し、謙虚な姿勢を忘れない椎橋にも、素敵なチャームが備わっています。