Culture

最適配置で社員がいきいきと働ける組織に。キャリア自律を促進する環境の構築に向けて

人事総務部の人事企画グループでグループ長を務める西村 領介。最適配置やキャリア自律をテーマに各種人事制度の企画・立案・構築・運用に携わり、兼務を公募する新たな人事制度“スラッシュキャリア”の発案から実施までをリードしてきました。制度の特徴や導入の狙い、取り組みにかける想いについて語ります。

西村 領介

技術の力でシステムを改善していく。業務を改善、効率化できた瞬間が嬉しい

近年、社会の環境変化が加速するのにともなって、お客様のニーズが多様化し、企業の経営課題はますます複雑化してきています。

人事総務部の西村は、そうした環境の中で、企業が自らの強みを維持していくためには、「刻々と変わるビジネス環境に対し、戦う市場や武器にとらわれない柔軟な対応が企業にも必要」だと話します。

西村 「事業のポートフォリオが変われば、社員に求められるスキルセットも変わってきます。当社では、自治体・公共機関向けと民間企業向けの各事業領域をまたいだソリューションの提供を経営戦略として打ち出すなど、お客様業務のデジタル化を促進することで、さらなる業務効率化の架け橋となることを目標に掲げています。

また、新たな価値を生み出すためには、社員のキャリア選択肢を広げ、自律的にキャリアを描いていけるような組織づくりも欠かせないと考えています」

そこで、富士フイルムシステムサービス株式会社では、変化に即して自らの希望のもとキャリアを切り拓いていくことができる制度を用意しています。

西村 「当社には、社員のキャリア形成を支援する複数の制度があります。自分のキャリア志向について定期的に上司と面談を行う“キャリア開発面談”や、自らが実現したいことを会社に提案し、審査に合格した場合に希望する組織に異動できる“キャリアチャレンジ制度”。ほかには、富士フイルムグループ内企業で公募し、出向形態で他社で複数年経験しスキルを磨くことができる“グループ内公募制度”などです。

部署を異動することに対してハードルを高く感じるメンバーのために、2022年度には新たな人事制度も策定しました。半年間のトライアル実施を経て、2023年10月から正式制度として運用が始まります」

現在の業務に軸足を置きながらも、異なるスキルを習得し、実践できる場を用意したい──西村が企画から実施までをリードして生まれた人事制度が、“スラッシュキャリア”です。

西村 「スラッシュキャリアは、既存業務を行いながら、リソースの約20%を使って他部署の業務を兼務できる人事制度です。総合職の正社員が対象で、経験したことのない業務や興味のある業務に挑戦することができます」

同制度のポイントは、これまでに培ってきた専門性を維持しながら、新たな業務を経験し、専門性を獲得できる点。ふたつ以上の専門性を掛け合わせることで、広い視野、多角的な視点や多様なスキルを保有する人材に成長してもらうことを目的としています。

西村 「事業や組織の領域を超えた人材交流という意図もあります。兼務制度によって組織間連携が強化され、異なるノウハウを持った人材の交流が促されることで、シナジーが生まれるきっかけになればと考えています。

また、兼務先に20%のリソースを割くことになるので、業績評価の対象にもなります。強いコミットメントが求められるのも同制度の特徴です」

こうした想いは、制度の名前にも反映されています。

西村 「以前、当社の社長がオードリー・タン氏を例に挙げ、複数の職業や役割を持つスラッシャーについて言及していたことが記憶に残っていました。兼務することが、新しい視点やアイデアを提供することにつながるとの想いを込め、“スラッシュキャリア”と名付けました」 

兼務制度が導入されるまで。こだわったのは、公募型であることと20%ルール

西村がこうした新制度の導入に着手したのは2021年のこと。まず取りかかったのは、当時の経営戦略と現状を照らし合わせ、課題を整理することでした。

西村 「領域ごとに事業部制を敷いて競争を促してきたことが、当社の成長の原動力です。しかしその反面、組織を超えたコミュニケーションが少ないことが課題でした。

そこで、組織を超えたコミュニケーションを促進させ、経営戦略が目指す機能別/事業部制組織のハイブリッド型を実現するためには、人事制度をがらりと変えるのではなく、人を介して組織間連携を強化することが近道だと考えました」

兼務を公募することを提案した西村でしたが、社内では慎重な意見も。新制度導入までの道のりは決して平坦なものではありませんでした。

西村 「総論としては受け入れてもらいながらも、マネジメント層に向けて企画内容について説明する中では賛否さまざまな声がありました。

苦戦した理由は、他社含め先例が少なかったこと。実績に基づいて説得することができなかったので、退職者を含む社員へのヒアリング結果や各種人事データを収集し、各関係者へ現状の課題について丁寧に説明し、地道にこの制度の必要性を説明しました」

新制度をつくる上で、西村がとくに大切にした点がふたつありました。

西村 「まず、公募とすることにこだわりがありました。最も重要なのは本人の主体性がきっかけとなることです。また、社員にコミットメントを求める以上、業務内容を事前に明確に知らせるべきだと考えていたからです。

もうひとつ、リソースの割り当てを20%にとどめることも大切にしていた点でした。失敗を恐れることなく、経験してみたい仕事に手を挙げられるところがこの制度のポイントだと考えていたためです。

また、20%であれば、兼務先も『ひとまず一緒にやってみよう』といった気持ちで受け入れやすくなることを期待しました。審査のハードルもおのずと低くなるため、人材の交流を活性化させる上で重視した点です」

これまで13年以上にわたって人事に携わってきた西村。一貫して持ち続けてきたのは、組織で働く社員の可能性を広げる後押しがしたいとの想いです。

西村 「私は一度当社にキャリア入社したのち、他社への転職を経て、カムバック採用により現在のキャリアを歩んでいます。自社のあたたかい社風に魅力を感じていますし、自分自身が採用に関わったすべてのメンバーにいきいきと働いてもらいたいと思っています。やりたい仕事に携わることはモチベーション向上につながります。自らのキャリア形成に主体性を持ち、世代に関わらず自律的にキャリア開発を行える仕組みづくりがしたいと考えています」

トライアル導入では15名が応募。公共/民間領域を超えた交流も

▲制度関係者との一枚

2022年に半年間の“スラッシュキャリア”のトライアルを実施。全体の約3%に当たる15名の応募があり、全員が審査を通過しました。

西村 「“スラッシュキャリア”と同様の制度を実際に活用しているベンチマーク企業3社での初年度の運用実績を見ると、1社だけが3%を超えていて、残りの2社では1%未満という結果でした。目指していたのは2〜3%ライン。数字を達成できたので、ひとまずは成功モデルと言えると思っています。

マネージャー層に対して、事前のヒアリング時や会議体などで説明し協力をお願いしていたこともあり、想定を大幅に超えるポジションの募集があったのも収穫でした。協力してくれた皆さんには、深く感謝しています」

今回の取り組みでは、西村が意図していた通り、公共と民間の領域を超えた人材交流も生まれています。

西村 「当社には大きく公共、民間、コーポレートの3領域がありますが、中でも焦点となったのが公共と民間の橋渡しをすること。今回、複数名が公共/民間の領域をまたいでの兼務を果たしました。コーポレートも含めると、組織の枠を超えた動きがさらに多く実現しています」

制度の実施後、各方面から大きな反響があったと話す西村。相応の手ごたえを感じていると言います。

西村 「実際に制度を利用した兼務者の方から、制度に対して感謝の言葉をいただきましたが、中には直接来て、『キャリアが硬直してモチベーションを喪失していたが、スラッシュキャリアのおかげでやりたかったことができている』『ぜひ継続してほしい』と感謝の気持ちを伝えてくる方もいました。

受け入れた上司の方からも、『とても助かっている。入ってもらって良かった』という声をもらっていますし、所属元の上司の方からも、視野の広がりや、新たな知識・スキルを獲得しているといったフィードバックを得ています。また、半数の部署から、兼務の延長や受け入れ継続の希望があるなど、制度の継続に良い感触を得ることができました」

一方、実際に制度を実施して見えてきた課題も。

西村 「所属元の業務とどうバランスをとっていくかが鍵になると思っています。というのも今回、応募者には所属元の業務を100%こなした上で、20%上乗せする設計にしました。上司の許諾を得ることを応募の条件にしたので、応募者たちにはそれなりに負担がかかってると思います。

所属元と兼務先の業務のどちらを優先すべきなのか、応募者は悩みながら日々業務に臨んでいます。今後はその部分にフォーカスし、より良いかたちを模索してきたいですね」

また、制度をキャリアの逃げ道にはしてほしくないという西村。応募者に対して次のように注意を促します。

西村 「所属元の責任と両立することが前提です。スタート地点に立つためには、上司ときちんとコミュニケーションを取って、しかるべきステップを踏む必要があります。

兼務先の上司も、応募者が目に見える成果を出せるよう、苦慮しながらマネジメントされているはずです。安易にほかの仕事を選ぶ手段ではなく、あくまで自己成長のための選択肢として、あるいはリスキリングのきっかけとしてチャレンジしたい意欲がある方に活用してもらいたいと思っています」

社員のキャリア自律と挑戦を後押しできるような環境づくりを

さまざまな人事制度を連鎖させながら、社員がパラレルにスキルを身につけ、強みを掛け算していける環境を用意することが目標だという西村。人事企画グループが今後担うべき役割について次のように話します。

西村 「制度はすでに十分に整っていると考えています。これからは、制度の定着とさらなる活性化の推進をする段階だと捉えています。必要なのは、個人がそれぞれのキャリア観を明確にしていくこと。それができれば、おのずと行動につながっていくと思っています。

制度はあくまで外発的な動機形成。これからは内発的な動機につながるような活動へと、少しずつシフトしていきたいと考えているところです」

一方、キャリア形成に取り組もうとする社員やこれから仲間になる人に向けて、西村はこう呼びかけます。

西村 「組織の枠を超えた行動が求められる時代になってきました。見方を変えると、組織の隔たりなくキャリア形成ができる時代です。だからこそ、自分で自分を制限することなく、キャリアの可能性に向き合ってほしいと思います。日ごろから自らのキャリア開発に考えを巡らせながら、その実現に向けて、いまある制度をうまく利用してもらえると嬉しいです。

当社には、自分らしいキャリアを選べる環境がありますが、社員の皆さんからのご意見もいつでも歓迎します。ますます良いものにしていくために、共に取り組んでいきましょう」

イノベーションを生み出す鍵となるのは、組織のメンバー一人ひとりの柔軟で多様なキャリア形成です。社員それぞれが自分の道を切り拓き、本来のパフォーマンスを発揮し合いながら生み出すシナジーの力を信じて——人事企画グループの一員として、西村はこれからも進化し続けます。

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